25歳の僕の歩み

このブログは、私が25歳の時にmixiに書いた日記を改めて読み返し、多少加筆訂正したものです。ご一読頂ければ幸いです。 南無阿弥陀仏

児童相談所での想い出1 -卓球-

2011, 6, 24

 

今回は、僕が児童相談所で勤務していた時の想い出ということで、その中でも「卓球」にまつわる想い出について書いてみたいと思います。

ちなみに、児童相談所関連の日記については、以前に二つ書いています。また、「虐待に学ぶ親と子、そして私」の方には、僕が勤務していた児童相談所についての大まかな紹介もありますので、よかったら参照してみてください。

 

さて、ではまず、僕が児相相談所の一時保護所に初めて一人で勤務した時の話から始めたいと思います。

僕は非常勤の泊りがけの勤務をやっていました。泊まりは正職員の方一名と大学生の非常勤職員が一名という体制で行われていました。最初の一回は、研修ということも兼ねて、先輩の大学生も入って下さり、大学生は二人で勤務します。

そして、その研修も終わり、ついに僕は一人で泊まりをすることになりました。僕はまだ、一時保護所の生活の規則や時間も覚えていませんでした。そんな僕に、それを教えてくれたのは、子ども達でした。(もちろん、職員の方からの説明も十分受けた上での話です。)

「あっ、先生。次は洗濯やで。」

「風呂場はこっちな。」

「あぁ、もうこんな時間。次は勉強やぁ。」

何も分からなくてドギマギしている僕を、逆に子ども達がリードしてくれました。

 

そんな頼りない僕と、子ども達との間の架け橋となってくれたのが、「卓球」でした。スポーツを通じたコミュニケーションというのは、本当にすごいなぁと感じます。何を話そうかとゴチャゴチャ考えて、なかなか話すきっかけがつかめなかった子ども達と、いとも簡単に楽しく打ち解けていくことが出来る。普段、あまり話さないような静かな子でも、一緒にスポーツをやってみると、「あっ!」とか、「うわぁぁっ!?」とか、「やった!!」とか、「ぎゃああ!!」などなど、いきいきとした声を聞かせてくれます。

そしてもう一つ。僕は中学生の時に卓球部だったこともあり、卓球の実力で子どもに負けることは、まずありませんでした。(先輩がいいからという理由で始めた卓球でしたが、ほんといろんなところで役に立ってくれています。)

そのお陰で、僕にライバル意識を燃やして挑戦してくる子や、卓球を教えてほしいと言ってきてくれる子とも、たくさん出会うことができました。

 

そのような出会いの中で、印象に残っているエピソードを一つ、紹介したいと思います。これは、当時中学二年生だった男の子との話。

彼はスポーツマンでした。運動神経抜群で、特にサッカーが上手でした。しかし、卓球は僕にかないません。いくら彼の運動神経がよかろうと、卓球経験者の僕にとって、彼に勝つことは簡単なことでした。だけど、彼は持ち前の運動神経でメキメキと腕をあげていきました。(きっと、僕の的確なアドバイスのお陰もあるはず。)

彼は非行系の理由で入所してきた子でした。そのこともあり、当時一緒に入っていた同じ年代の男の子たちとつるんで、気の弱そうな先生をおちょくるような子でした。

だけど、彼はとても根がまじめな子でもありました。一緒に入っていた同じ年代の男の子たちが退所していくと、彼のまじめな部分がどんどん現れてきました。彼は、他の子ども達の面倒をよくみてくれてました。一緒に遊び、時には注意することもできる子でした。掃除や勉強もまじめにこなし、特に毎日書く日誌は、一日の出来事や自分の思い、反省点などを多い日には、八日分ものスペースを使って、たくさんたくさん書いてくれました。

また、ある職員さんから、

「この間、あの子に卓球のドライブを教えてもらったんですよ。あの子、とっても教え方が上手なんです。」

ということを聞きました。僕は、とてもうれしい気持ちになりました。(そして、彼にドライブを教えたのは僕でした。)

 

彼は、やさしい心の持ち主でした。

ただ、彼は周りに流されやすい子でもありました。(いや、彼が流されやすいのではなく、もしかしたら彼は私生活の中で、流されても仕方のないような状況にいたのかもしれません。)

 

彼は、一度退所してから二カ月もたたないうちに、再び入所してきました。そんな彼と、僕は大学についての話をしたことがあります。彼は、高校進学、そして大学への進学を希望していました。

でも、今の生活態度のままでは、それは実現できない。それは、彼自身、痛感していたことでもありました。周りに流されることなく、自分のやるべきことをやる。それが、彼の中の大きな課題でした。

 

そして、彼の退所がいよいよ近づいてきたある日、僕は彼と、最後の卓球をしました。試合のように得点をつけるのではなく、ただ、お互いの技をひたすらぶつけ合う。彼はここに来て、本当に卓球が上手になりました。この時の卓球は、改めてそのことを実感する時間でした。そして何より、楽しかった。彼との卓球は、僕にとって本当に楽しい時間でした。(そして、きっとそれは彼にとっても…。)

就寝前の反省会の時、僕は彼に言いました。

「きみは本当に卓球が上手になった。ここを出てからは、きみが卓球の楽しさを広めていってほしい。」

彼は、親指をぐっと立てて、笑顔で応えてくれました。そして、彼は児童相談所一時保護所を退所して、新たな場所へと旅立っていきました。

 

以上で、彼とのエピソードはお終いです。

さてさて、今回は児童相談所での想い出ということで、「卓球」に関する話を書かせていただきました。また折にふれて、いくつか僕の想い出を紹介していきたいなぁと思っています。