児童相談所での想い出2 -厳しい躾と輝く笑顔-
2011, 7, 15
今回は、僕が児童相談所で勤務していた時の想い出ということで、「躾(しつけ)と笑顔」というテーマで書いてみたいと思います。ちなみに、児童相談所については、2011/05/13「虐待に学ぶ親と子、そして私」という日記に、大まかな紹介もありますので、よかったら参照してみてください。
milleface.hatenablog.com
さて、それでは僕の想い出のエピソードを一つ紹介したいと思います。
ある日、児童相談所の一時保護所に、ひとりの女の子が保護されることになりました。
彼女は当時、6歳。まだ、小学生に上がる前の子でした。物静かな感じの子で、クリっとした大きな目がとても印象的でした。
それから何日か経って、彼女は支援ホームに移ることになりました。
児童相談所には、子どもを保護する施設が二つあり、一つは一時保護所。そして、そのもう一つが支援ホームでした。一時保護所は、生活の時間が細かく決まっていましたが、支援ホームは名前の通り、「家」という感じで、一時保護所よりも規則の緩やかな保護施設でした。
そして、支援ホームの勤務の日。僕は久しぶりに彼女に会って驚きました。一時保護所の時のもの静かな雰囲気が一変して、そこには、とってもおしゃべりで、元気いっぱいな女の子がいました。
緊張が解けるだけで、こんなにも印象が変わるんだなぁと驚きました。だけど、それが本来の彼女の姿なのかなぁと思うと、なんだかとてもうれしい気持ちになりました。
彼女はとても活発で、その時、支援ホームには、小学3年生の女の子と4年生の男の子の兄妹(彼女とは別)も一緒に保護されていたのですが、その子たちに向かって、あれこれと遊びの指示を出していました。
そして、大きな目を輝かせて、楽しそうに元気よく遊ぶ彼女の姿は、とてもほほえましいものでした。
また、彼女は元気で明るいだけではなく、とてもきちんとした子でもありました。他の子が遊びから帰ってきて、玄関に靴を脱ぎ捨てて入っていくのに対し、彼女はきちんと、自分の靴を揃えていました。
また、洗濯物のたたみ方も、彼女は飛びぬけて上手でした。
しかし、それには理由がありました。
彼女は、親の過剰な躾(しつけ)が原因で保護されてきた子でした。
親からの躾に彼女が応えることができないと、親は、
「そんな子は、この家の娘ではない!」
と言って、児童相談所に彼女を預けに来るのでした。
このことで、彼女は児童相談所に何度も保護されることになりました。
時には、ぴかぴかのランドセルを背負ったまま、夜の9時ごろ、突然保護されてくるというようなこともありました。
彼女は泣いていました。僕は、声をあげて泣く彼女をやさしく抱きかかえる職員さんと一緒に、傍にいることしかできませんでした。
そして、泣きやんで気持ちが落ち着くと、彼女はまた、いつものようにとびっきりの笑顔を見せてくれました。
彼女は僕に、とてもなついてくれていました。
ある日、支援ホームに行くと、彼女は一緒に保護されていた小学生の兄妹たちと共にだだだだっと走ってきて、僕に抱きついてきました。彼女たちは、得意そうに笑みを浮かべながら、
「好きな先生が来たら、こうすることにしたの!」
と楽しそうに言いました。彼女たちの行動があまりにもかわいかったので、僕はしばし、絶句してしまいました。
またある日、彼女は一緒に保護されている女の子(小学生の兄妹の妹の方)と一緒にお風呂に入っていました。僕はその間、本を読みながらのんびり待っていたのですが、突然、勢いよく脱衣所のドアが開いて、
「先生!一緒にお風呂はいろっ!」
と彼女が満面の笑みで言ってきました。だけど、その後ろで、
「ちょ、ちょっと!早く閉めて!」
ともう一人の子の慌てふためく声が聞こえて、バタンッとまたドアは閉まりました。その光景が、あまりにもおかしくって、僕はしばらく笑っていました。
ちなみに、彼女と卓球もしたことはありますが、まだ6歳ということもあり、ほとんどラリーは続きませんでした。だけど、それでも彼女ははしゃぎながら、卓球を楽しんでいるようでした。
彼女はおそらく、相当厳しい躾の元で育てられています。そのお陰で、彼女はとてもお行儀がいい。それが体に痛いほど染みついている。自然と彼女の行動の一端に現れてくる。
だけど、そんな彼女が見せてくれるもう一つの顔。とても活発で、わがままな子どもらしい一面。そこには明るく輝く笑顔がある。その笑顔を見せてもらうと、それが彼女の本来の姿なんだろうなぁというふうに感じます。歳相応に元気で明るい、目の大きなかわいい女の子。
彼女との想い出は、他にもたくさんありますが、今回はこのあたりまでにしておこうと思います。また折にふれて、いくつか僕の想い出を紹介していきたいなぁと思っています。